昔、祖母が誕生日にビー玉をくれた。
これはおばあちゃんの宝物なのよ、と包んで。
青く深い
透き通ったビー玉。
その色が好きだった。
祖母にとってそうであったように
私にとっても宝物になった。
淡い記憶の中で
くるくると光を踊らせるビー玉。
それから幾年か経って、明日は母の誕生日だった。
私は何をプレゼントしようか悩んだ末、
ビー玉をアルミホイルで拵えて指輪を作った。
私の一番好きな青に輝く指輪を、母はたいそう気に入ってくれた。
私が高校に入り、大学を出て、結婚したときも
歪(いびつ)なシルエットのそれを、箱に大切にしまっていた。
私に子供ができた時、母は毎日毎日孫の顔を見に来た。
今や母の心に輝くのは私の子であって、
母も私も、そんな日々を穏やかに過ごした。
息子の誕生日、母は思いがけないことに
青いビー玉を、プレゼントした。
これは、私の宝物なのよ、と包んで。
息子はとても喜んだ。それからというものの、そのビー玉を手放さなかった。
巡る季節を何度か過ぎて、
息子が私にプレゼントをくれた。
青い、ビー玉のブローチ。
たからものを、私のために。屈託の無い笑顔で。
ああ、そのために母は宝物にしたんだ。
大切な人のために、たからものさえ惜しまない、その輝きに。
青く重なる、過去と現在に。だから。
息子はそれきり、ビー玉のことをとんと忘れた。
もっぱら体を動かすことに楽しみを覚え、夜も遅くまで帰らなかった。
不安に思う我が身をよそに、それは高校、大学を出る頃まで変わらなかった。
息子が結婚し、いくらか時間の流れに急かされるようになるころ、孫ができた。
いくらかの時間を、今度は急かすようになり、そして気付いた。
ああ、あの青い、ビー玉は。だから。
だから祖母は、くれたのだ。
私に願い、母を想い、自分を重ねて。
青く重なる、過去と、現在と、未来と
ビー玉に映る、大切なもの、大切なこと、その記憶。
大切な人のために、たからものさえ惜しまない、その輝きを、紡ぐために。
青く輝くビー玉を、ブローチから外して
未来を願って、これは私の宝物なのよ、と包んで
青を託した。
残されたブローチをみて、私はまた気付く。
母も祖母も、きっと息子も孫も。
中心は離れても、手の中のブローチは、確かな絆なのだ。
紡がれてゆく青を見送って、私が寂しくないように。
温かく、眠る。
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